ビビッド・ミッション、お任せを
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


地図の上では何ら問題がないものが、
でもでも実はとんでもないってのは、それこそ 実はよくある話。
あの『踊る捜査線・劇場版』のパート2の終盤でも、
いやさ それよりずんと古い作品、
『ぱとれいばー』のこれまた終盤の襲撃騒ぎでも出て来たのが。
現行の最新版の地図だのカーナビだのにも記載はないけれど、
点検用のらしき地下道があったり、
プレハブとは思えないようなしっかとした建物が現にあったりする、
公式最新情報と“現状”とのギャップで。
無いものが有るのもなかなか厄介ですが、
ずっとあったはずの目印ぽい標識だのお店だのが
近所の人もよくは覚えてないほどの いつの間にか、
けろりと無くなってたりというのも、これまたよくある話で。
どんなに有名な名所でも、
そこへ至るのに結構な難所ばかりという場所だと、
実際の“現在”はとんでもなく様代わりしてたりするかもで。

 「まあ確かに、いくら自分の住んでるマンションの近所でも、
  平日のほとんど会社に行ってる人には地元とは言えませんしね。」
 「専業主婦や自営業の人にしたって、
  関心がなけりゃあ いちいち気にしませんよ。」
 「そうそう。建設中のスーパーでもなけりゃね。」
 「新しいコンビニとかだって、
  当初こそ“おや”と思っても、
  連日通うほど使う店舗でもない限り、
  いつの間にか看板が変わってたって気がつきません。」
 「???」

それは言い過ぎだろうって? いやいや久蔵殿。
ええ、案外とあるんですよ、そういうケース…と。
寡黙な紅眸のお嬢様よりかは、少しほどの差で世間を知っているお友達が、
二人がかりで交互に言ってのける。
そもそも集客には向いてない立地なのか、
どんな業種のテナントが入っても長続きしないで、
結果、看板がころころ変わる雑居ビルとか。
ともすりゃあ、そういうものとして有名な物件もあるほどで。

 「わざとコアな店にして
  むやみにお客を寄せつけないようにしてたっての、
  どっかのラノベでなかったですかね。」

 「あ、そういうの有りそうですよねvv
  実は 秘密の世直し探偵事務所とか♪」

おいおい、のっけから脱線してどうしますか。(苦笑)

 「なので、あの廃工場も。
  無人なはずが、乗用車だの人だのが出入りしていても、
  物件を見に来た人だろう程度にしか
  ご近所の方は関心寄せなかったらしい。」

 「この辺一帯、工業用地になりかかって、
  でもでも頓挫した土地柄ですから、
  常駐のご近所さんからして少ないですしね。」

相当長い間 無人のはずが、
浮浪者や不良が勝手に入り込んでなかったのが不思議なくらいで。
むしろ、そういう人たちの間では、
“きっちり戸締まりされてて付け込めない”って有名だったかもですね。
不法占拠という目当てを棚に上げて“何か怪しいぞ”ってですか?と。
何やら意味深なことを会話の芯としつつ、
それは愛らしい三人のお嬢様たちが、
作法通りの麗しい所作にて暖かいミルクティーをご堪能中。
場所は三木さんチの中庭、
陽だまりの中へと張り出した格好でしつらえられたサンルームだったし、
テーブルには当家のシェフが腕によりかけてこしらえた、
ショートケーキやクッキー、
マフィンにプリンにミックスサンドなどなどが揃えられ。
堅苦しい集まりでなしと、装いこそ普段着ながらも、
柔らかな色彩のジノリのティーセットも品のいい、
一見、穏やかなお茶会のようではあったれど。
どういう趣向か、お嬢様がたが見やっているのは、
お部屋のぐるりを取り巻く大窓から望めるお庭ではなく、
テーブルへと開いたノートPCの画面であり。


  何かまた、引き起こすつもりでしょうか、三華様がたったら。
  保護者の皆様に 了解は取ってあるのでしょうね?(う〜ん)




      ◇◇◇



コトの起こりは、
まだ終業式は迎えてないが、
事実上 春休みに突入しておいでだった二月の末のこと。
補習授業も何とか免れた、
白百合、紅ばら、ひなげしの三人娘としては、
三年のお姉様がたをお送りする卒業式を前に、
やはりそれぞれなりの役職やらお当番やらに就いておいでで。
斉唱部の久蔵殿は、式典のところどころで奏される合唱の伴奏を任されていたし、
剣道部だけでなく、式典のおりだけの“助っ人”放送部の七郎次さんは、
その美声から、式進行のアナウンスをやはり任されておいで。
実質は幽霊部員も同然ながら、美術部のホープであるひなげしさんは、
講堂や父兄来賓の控室の設営を、華道部ともども担当しており。
組織委員会の皆様と同じほど、多少は忙しい身でもあるのだが、

 「なんの、どうせ毎日のようにお顔を合わせるつもりでおりましたし。」
 「………。(そうそう)」
 「遅刻しづらい時間と場所を、提供してもらってるようなもんです。」

あ、それってワタシへの“特に”でしょうか?
やだ、考え過ぎですよぉ、ヘイさんたら。
だが油断しまくり。
まあ、一番近所だってのに いつもギリギリじゃあありますが…などと、
いつも通りの茶目っ気も発揮しつつのお元気に。
この冬一番の寒さも何のそのと、
女学園までの道行きを、そりゃあ楽しげに通っておいで。
とはいえ、授業があっての登校ではないので、

 『あ、そうだ。新しいグルーガンが出たんだった。』

グルーガンってあの、樹脂を溶かして接着するお道具ですよね。
ええ、新しいタイプのが出たって、
文具センターニュースで扱われてまして…と。
今時のお嬢さんたちが見逃さない“ファスト・ファッション”の情報以上に、
文具や工具の最新情報にも抜かりはないらしい平八が、
今日は学園へは出ずに、
Q街の大きいホームセンターまで行くと言い出したものだから。

 『じゃあアタシもお付き合いしますよ。久蔵殿もご一緒しませんか?』
 『………vv(頷、頷vv)』

何しろ、準備委員会の一員とまでの身ではなし、
殊に七郎次と久蔵は、当日こそが出番なので、
準備段階まで何も現場にいなくてもいいお立場でもあるので。
顔出しが出来ませんとの連絡さえすれば、特に問題も無かったりし。

 “とはいえ、
  居ると居ないとじゃあ士気に影響するらしいですが。”

あはは、ひなげしさんたらvv
でも、それは何となく判るような。
学園祭とかこういうのって、準備からお祭りですものね。
遠足は お家に帰り着くまでが遠足です…ってね。

 “それはちょっと例えが違うぞ、もーりんさん。”(すみません…)

そういった流れの関係から、
単なる遊びにではなくの、純然たる目的持って、
Q街という近隣の繁華街まで出て来た彼女らだったのだが。

 「やっぱりさすがは、早めの春休みですよね。」
 「うん。」

お約束のフレーズとして、他人のことは言えないながら。
平日の昼日中だというに、
駅前から連なるモールも商業マートも
明らかに学生層だろう顔触れの人出が多くって。
このところはそれが多かったセーラー服じゃあない、
テーラードデザインのジャケットの下だとはいえ、
花柄のインナーだけは先行させた、春先取りの装いだったり、
ダウンジャケットの裾から あんまりはみ出してないのが罪作りの、
相変わらず チョーミニマムなボトムだったり、
どこの近衛連隊の指揮官ですかというよな、
胸ポケットの縁への飾り鎖つき肩章も凛々しい、
手の込んだジャケットスーツに ニーハイブーツという、
決して意識しちゃあいなかろが、すらりとした御々脚も強調されての、
コスプレ一歩手前風ないで立ちだったり…という、
人出の中でも目立ってしょうがないお嬢さんがたでさえ、
ありゃりゃあと驚いてしまったにぎわいであり。

 この寒いのにみんな元気だなぁ。
 何ですよ、シチさんたら年寄りみたいなこと言って。
 でも…。

自分だって、学校に行くよりは張り切るかもと、
いつも以上に“ごにょごにょ…”っと
口ごもった紅ばらさんだったのへは。

 あははのは、と

言外に同感だという含みを持たせての、
苦笑を寄せたお友達でもあったり。

 「さて、お目当てのグルーガンも買いましたし。」

大きめのホームセンターは、工具に目の無い平八ならずとも、
変わった文具や可愛い雑貨も揃っているので、
あとの二人にも遊園地のような場所ではあって。
そこでの、予定外だが想定内ではあった、
ついついというお買い物も楽しんでの、さて。
どこかで一休みしましょうかと、
通い慣れているからこその やや穴場お馴染みのカフェまでと、
大きな通りからひょこりと外れた、裏道に当たろう路地へ、
軽やかにお喋りしながら踏み込んだそのときだった。

 「……え?」
 「なになに、今の。」

タイヤでもパンクしたものか、いきなりのパーンっという炸裂音が鳴り響き、
駅前のほうだったぞという声が立っての、
モール前の通りを埋めかけていた人の流れが少しばかりそちらへ動く。
わざわざ駆けつけるほどじゃないなぁと思う人も少なくはないようだったが、
そこは反射のいい若いお人ら。
一斉に同じ方向を、しかも素早く見やったところこそお見事で。
しかも、

 「車が突っ込んだらし…。」
 「ほら、新装開店のスタンドカフェ…。」

なんていう物騒な会話がリレーされて来たのへ、
こんな言い方こそ不謹慎ながらも、
そこは好奇心の多かろ世代で、食指をくすぐられたものか。
流れが徐々に速まるように、そちらへ駆け出す顔触れが増えつつあったれど。

 「何かあったんでしょうか。」
 「事故、みたいな言いようでしたよね。」

写メとか動画とか撮って、マスコミへ売る人とか出るのかなぁと、
やれやれなんて苦笑しつつも。
何か事件だということへの関心は出て来たか、
平八や七郎次がそちらを向いたままだったのの傍らから、

 「…っ。」

素早い動きの残像のようなもの、
居なくなった何かが瞬発的に飛び立った、
その並外れた羽ばたきの余韻がして。
普通の人なら“何か風でも通り過ぎたかな”くらいの感触だったろうが、
こちとら、そういった感受性も微妙に偏っている顔触れなだけに、

 「…え?」
 「久蔵ど…の。」

一体何が見えたのか、
他の野次馬たちとは明らかに違う方向へ。
見とがめられたって構うものかという、
尋常ならざる前傾姿勢と大きなストライドでもって、
凄まじい初速を発揮し、駆け出した先にあったのは、

 「…っ。」
 「シチさん、これ。」

久蔵殿は既にその手へいつもの得物を繰り出していたが、
七郎次は何も持って来てはいなかろと。
こちらも遅ればせながら駆け出しつつ、平八が隣のお友達に差し出したのが、
平たいがカタツムリをデフォルメしたようなデザインといい、
ズシリと重いことといい、
さっきのホームセンターにもあった、
木工工作用のステンレスメジャーっぽい何かで。

 「引き出してよじれば、結構頑丈な棒状に固定出来ます。」
 「判ったっ。」

手渡したと同時、スマホを取り出し、
頭上を見上げた平八だったのは監視カメラを確認したのだろ…と。
一連の対処を数秒かからずこなせる恐ろしさで、
人々の関心とは真逆のベクトルへ、
意識を向けの駆け出したお嬢様たちが。
この勢いのままという問答無用で(おいおい)
掴みかかろうとした相手の側でも、

 「…っ。」
 「ちっ、」

何でこっちへ来やがるかという、明らかに忌々しげな顔になった者、
その手前へ飛び出して、薄ら笑いを浮かべ、
立ち塞がりながら執り成そうとしかかった者へは、

 「どけぇっ!」

一応の忠告か予告か、
宣言するようになっただけ当社比38%ほどマシの、
駆け出したら停まらない止めれらない、三華きっての弾丸ガールが。
麗しいお声で凄まじい罵声もどきを叫びつつ、
たんっと地を蹴った踏切り一歩のみで、
結構上背があった妨害マンの肩先を飛び越しており。

 えっ?、と

何で停まらないの何でこんな軽々飛べるの何でそんな高さを稼げたのと
色んな“何で?”を必死で照会計算中らしい、
脳内集中している分、何とも間抜けなお顔になったおじさんが、
それでも…それが役目と、
引き留めんとしてだろう振り返ろうとするより早く、

 「ちょぉっといいですかぁ?」

地味なスーツの襟首掴み、
こっち向いてほらと引き戻したのが平八ならば、

 「そこの不審者たち、止まりなさいっ!」

どけぇっよりは中身のある文言を告げながら、
手元へメジャーを引き伸ばしつつ、久蔵の細い背中へと追随しているのが七郎次。
だって…意識の無さげな女の子を、二人掛かりで担いでの、
クリーニング店の回収車風バンへ引っ張り込もうとしていたのですもの。
知人が不意に気分が悪くなってとかどうとか、
言い訳したけりゃ訊いてもやるけど、

 “そのついでに、なんでそんな、
  地味な背広姿の顔触ればっかなのかも聞かせてもらおうか。”

クリーニング屋さんがそんな服装じゃいけないとは言いませんさ。
でも、確実に作業はしにくかろうし、
ここいらを回収して回ってる車は
○○舎のと▽▽屋のだけってちゃんと知ってる。
新規の会社だってんなら尚のこと、
制服や事務服からはとんと遠いだろ、
一点ものらしいカチッとした、フォーマル仕立てのスーツ着たお嬢さん、
なんで意識の無いまま、
しかも座席を上げた後部の荷台へ引き上げようとしてるかなと。
不審の塊なところを全部、洗いざらい吐いてもらおうかとの理論武装、
その内心で着々と構築していた七郎次だったのだけれども。

 「行くぞ。」
 「だが…。」

動き出した以上、やり直しは利かないと…と未練がましくする片やへ、
追っ手に尾けられる方が面倒だ…などと、もう片やが言い聞かせていた、
相手方の逡巡の間合いへと。
さすがの韋駄天、紅ばら様がギリギリで辿り着いたものだから。

 「天誅っ!」

接近に関しての予告はしたからなということか、
ほぼ問答無用も同然に“ぶんっ”と鋭く横薙ぎに払われたのは、
久蔵愛用の特殊警棒(伸縮タイプ)の切っ先だったが、

 「…っ。」
 「な…っ。」

手前にいた方の“怪しい男A”の肩口を狙ったのに間違いはなく。
とはいえ、そんな意図までも、
見ず知らずな相手へ判りはしないのもまた道理。だのに、

 “…………おや?”

手前の男が当たらぬようにと避けたのはまま判るが、
その後ろ位置にいたもう一人、
意識を失った少女を背後から抱える格好で立ってた方の存在が。
少女へ当てるまいとしてか、
自分の背中で庇うよう、クルリと身を回して避けたように見えたので。
久蔵の手もまた、瞬間的に振り降ろしの速度を落としたほど。
こちらサイドのそんな怯みように、気がついたせいかどうかは判らぬながら。
怪しい男たちだ覚悟しろという方向で、
勇ましくも飛び掛かって来た乙女らだというのは察したか、

 「チッ。」

選りにもよって、連れ去ろうとしていた少女の身を
軽く反動をつけての“ほれ”と、
久蔵の正面へと差し出したのは、なかなかの機転。

 「う…?」

咄嗟のこととて、何を優先すべきかが素早く判ってのこと、
たちまち、その手から警棒をパッと手放しての、
見知らぬお嬢さんを受け取っていた久蔵であり。

 「あ…。」

そんな彼女の狼狽ぶりへ、
片やは苦笑を、片やは忌々しいという渋面を向けつつ、
バンへと乗り込んでった彼らとそれから。

 「あ、待って。」

平八が引き留めていた、一番手前にいた男を
走行しながら拾い上げる手際の鮮やかさ込みで。
運転担当だったのだろう、顔は見えなかったもう一人。
最低4人は居いたらしい陣容の何物か、
恐らく…くせ者たちだろう連中は、
恐ろしい働きを見せた女子高生たちに舌を巻きつつも、
そちらさんもまた颯爽と、
その場から文字通り“姿を消す”よに、撤収していったのでありました。

 「シチ。」
 「久蔵殿、怪我は?」

同い年くらいの、だが、
意識のない少女を支えるのは、
俊敏な分、力仕事はやや苦手な久蔵には結構大儀だろうと。
微妙に出遅れた七郎次が、
立ち尽くす久蔵へとお声を掛けつつ、
手伝いますよと、
今にも取り落としそうになってた少女の身へと手を掛ければ。
自分は無事ということか、ううんとかぶりを振ってのそれから、

 「今の…結婚屋だった。」
 「はいはい、…………………って、え"?」

聞こえた久蔵のお声が意味をなすのに、
さしもの七郎次でさえ一拍かかったのも詮無い一言。
そしてそれを紡いだご当人もまた、
駆け去った車の面影を街の雑踏の中に捜したいか、
どこか呆然としてその場へ立ち尽くしてしまったのだった。




NEXT


  *さぁて、
   ややこしい事態にややこしい人まで絡んでるようですよ。
   とりあえず、街なかでいきなり特殊警棒を振りかざすのは、
   何とかならんか、三木さんチのお嬢様。(う〜ん)
   榊せんせえに毎朝来てもらって
   持ち物検査とかしてもらった方がいいのかも知れません。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

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